高齢者居住への試行1 急な要介助時の対処

「リハビリテーション研究」1990年9月(第65号)36頁/(財)日本障害者リハビリテーション協会発行に「介護は介助行為によって、対象者の日常生活を支え、本人の生活力を明日につなげる活動、援助でなければならない。介護とは、相手の人格や生活を分析し、その個人の社会的生活を保障し、自立にむけた援助行為(活動)であり、そのための食事、入浴、移動、就寝、排せつな どの介助を通して、社会的人間として活動する上で必要な部分を補完、代行することであろう。」とあります。この文章は、我々設計に携わる建築士という立場で心得るべき 「介護の定義」が最も適切に表現されたものではないかと思っています。高齢者が暮らす住宅の改修はもとより、長く住み続けるであろう若夫婦の新築住宅へも、ライフステージの移行に伴う可変性のテーマにこの定義を善く加えていけば、財政難で医療・介護の在宅化に向かう日本には、必ず役立つと考えられます。

今後、「高齢者居住への試行」というタイトルのブログ記事には、上記「介護の定義」の視点で自分が実際に見たり体験したものをレポートしていきたい思います。

■ 突然の要介助 和室での布団就寝とトイレ移動の工夫

寒さが強まり始める11月初旬(2009年)、独居の父親の体調が好ましくないという知らせを知人から聞き、実家へ急行しました。事前に診てもらっていた内科医からはインフルエンザと判定(が後に大手術)され、5~7日程度は高熱と筋肉痛で身体が不自由になることから、治るまで世話のために仕事や寝食を実家ですることにしました。

丁度、翌月にある福祉住環境コーディネーター2級の受験(が試験へ行けず)にあたって「介護と住生活」の生きた勉強ができるという機会であること、所謂バリアーフリーにとどまらない介護環境の改善について自ら検証したいという思いがわき、即、観察を始めました。※自宅や病院では常にカメラを首からぶら下げ、父親当人の疾病患部写真や大手術後のICUでの動画、治療リバビリ計画書、介護書類など様々な資料を保存管理をしました。もちろん冷淡と思われるのは承知のうえで、実際に白眼視もされましたが瑣末なことで、むしろ入院先の担当医師に写真を見せたことにより疾病判断の一助になった益の方が大きいと感じています。

一般的に掃除や買い物などを介護ヘルパーさんへ頼んだり、杖や手すりなどの自立支援用具類のレンタルや購入補助等の介護サービスを利用するには、「要介護認定」を受ける必要があります。利用者の心身の状態からどの程度の介護が必要かを介護の必要度に応じて判定されます。介護認定審査会(医療・保健・福祉の専門家で構成)で、訪問調査による調査項目から一次判定結果と、主治医意見書、訪問調査による特記事項などを基に、介護の必要性を審査判定し、最終的な要介護度を二次判定として決めます。なお、申請から認定までの期間は、概ね30日かかることから、突然の要介助時には、上記の要介護認定による介護サービスを利用できないので、家族が工夫して介助をやらなければなりません


四肢の関節に痛み(不自由)を抱えながら布団に横たわる前の状態
  • イ:食事や起きる際に背中を起すために布団裏に座イスとクッションを敷く+布団汚れ防止シーツ
  • ロ:歩行器(被介助者の体型や可動姿勢を測り、ホームセンターの材料で自作)
  • ハ:呼鈴(ペンダント照明のひもを伸ばしタンバリンを吊るす)
  • 二:手元の常置品は飲料水・常用薬・ティシュ(湿・乾)・小タオル・尿瓶(しびん)2ケ・電話機・時計・加湿機
何らかの疾患により、突然ADL(日常生活動作:activities of daily living)が満足にできなくなった場合に家族が心掛けることは、当人に羞恥心を極力持たせず生活動作ができるようサポートすることだと思います。私はなるべく廃用症候群(体力低下などによる寝たきり化)のリスクがないよう当人にヒアリングをし、上記イ~二にある最低限の道具立てをしました。※今回はインフルエンザであると言う前提なので入浴に対する対処を検討していません。また要介護認定を受ける時間がないので、介護サービスをこの時点では利用していません。


〈左〉:布団に入りながらの食事(粥) 〈右〉:歩行器を手掛りに立上がる
  • イ:寒さを強く感じることから、毛布+掛け布団2枚
  • ロ:高齢の室内犬が2匹 ※後に問題として扱うようになる
  • ハ:窓を開けず、雨戸を閉めたまま暗い
  • 二:衣類や物が収納されずに雑然と置かれる
旧型のエアコンからの温風が不快と、室温15℃で「イ」布団を重ね掛けるも、夜中に寝返り等で布団がはだけて寒くなり、呼鈴(タンバリン)で私は頻繁に呼ばれました。「ロ」ペットとして飼われている2匹の高齢な室内犬へは、独居高齢者にとって家族である掛替えのなさが一層強い。しかし、給餌や散歩(排せつ)を満足にさせることができないのでは衛生面でのリスクが生じます。また、体力が低下すると今まで普通にやっていたことが億劫になり、「ハ」窓を開けることによる自然採光(日光)の取り入れや換気をしなくなります。また、「二」きちんとした収納を行わなくなり、やがて澱んだ空気で暗く、ホコリだらけの不健康な室内環境に変わってしまいます。


〈左〉:和室からダイニングを通過する 〈右〉:ダイニングから廊下に出る
  • イ:壁端部(柱)を支えにつかむ
  • ロ:ダイニングテーブル端も支えに手を置く
  • ハ:床段差があることで歩行器が扱いづらい
介護のなかで「排せつ」ほど自尊心や羞恥心の面でデリケートなものはないでしょう。尿瓶への排尿は介助をしましたが、排便は当人にとって最も介助されたくない行為とのことです。よって便意をもよおした時は懸命でした。トイレへの移動の際、歩行器(自作)を利用しますが、可動するうえに軽いためなのか安心感が乏しいようで、「イ」「ロ」動かない(動きにくい)手掛りがあるとそちらを身体の安定保持に使う傾向があります。引き戸ではなく扉開閉の煩わしさと「ハ」1CM程度の床段差があると、歩行器を取り回すことが難しいようです。


〈左〉:廊下からトイレに入る 〈右〉:トイレから廊下を通過する
  • イ:トイレ扉のノブをつかむ
  • ロ:ダイニング扉のハンドルをつかむ
  • ハ:排せつ(小)も座りながら行う、便座カバーは閉めない
ダイニングとトイレの廊下を移動する際に歩行器を使わない理由として面白いものを見ました。「イ」「ロ」両手それぞれが開けられたダイニング扉のハンドルとトイレ扉のノブを同時につかんでいます。偶然、手掛りの距離がマッチしたのでしょう。トイレのドアノブについては良く言われるとおり、手の関節の痛みや握力低下から開閉しにくいそうです。身体を曲げるのがつらい者には「ハ」便座のフタ(カバー)の開閉にはストレスがあるので普段から閉めないそうです。


以上が介護状態になった場合の最低限の道具立てと問題点です。どうやら、(非認知症介護者)介護ストレス軽減のカギは排せつ行為に関わる一連の物事を、どうスマートにできるかだと思います。室内の改修のアイデアとして、介護ベッドのほぼ横に便器を置くということを見栄えも含め上手くできれば、介護される側とする側の両者にとって好ましいものになるのではないかと思います。

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