朝倉彫塑館 耐震・修復工事にみる レトロフィット

アトリエ(アトリエ棟:RC造)に細かな床材などをナンバリングして保管
東京都台東区谷中にある朝倉彫塑館は現在(2012年5月)、工事工程表(2009年10月~2013年3月)を見る限り、耐震補強と劣化部の修復がほぼ完了に近づいたところです。工事(耐震診断含)が始まる以前、私のお気に入りは、住居棟(木造)1階の寝室の窓辺から見る庭の景色で、思い入れが強いものでした。見学再開はまだかまだかと思っているうちに、2010年11月と一年後の2011年11月に工事現場を拝見できるチャンスがありましたので都合をつけて行きました。

朝倉彫塑館の建築物は「登録有形文化財」、庭園は「国指定名勝」に指定されており、今回の保存修復にあたっては、配布された資料内に「・・・本建物は建築 以後数度の改修が行われたが、朝倉氏の手によるものとそうでないものとでは、その考え方に明らかな違いが見られる。没後の改修は公開施設としての機能を優 先させたものであるのに対し、朝倉氏の手による改修は、生活の場・創作に場・後進指導の場としての使い勝手や不具合に対するものであり、必要最小限である ばかりか、付加された要素は全体意匠を壊すものではない。つまり、朝倉氏晩年期である昭和30年代の姿は、朝倉文夫氏の庭園と建築としての最終形であると 捉えることができる。・・・」 とあり、朝倉文夫さんの晩年時の姿に戻すということです。

※朝倉彫塑館の保存修復概要等については、見学当時に配布された資料をPDFファイル化したので、リンクからご覧ください。
朝倉彫塑館 保存修復工事 現場見学会資料 ― 平成22年11月5・6日
名勝 旧朝倉文夫氏庭園 保存修復工事 現場見学会資料 ― 平成23年11月4・5日
アトリエ床下(埋ごろし)にあった粘土などの材料保管庫
アトリエ床下の大型彫塑製作用につくられたセリのような電動昇降装置
既存の床材そのままの位置を記録して保管したり、当時は舶来の技術であった電動昇降装置をほとんど当時ままで動くようにするそうです。

アトリエ棟3階の廊下。右には文人などが集まった和室(朝陽の間)
当時のプロポーションに戻すためのスチール建具※上写真左の窓
既存ではアルミ建具であったものを、気密性や耐候性が劣るスチール建具に戻すところは、居住・執務性よりも文化的に意匠を優先したゆえのことでしょう。朝陽の間の砂壁には、めのう石の粒が使われており、剥ぎ取ったあとにめのう粒のみを集め再び壁仕上に使うとのことです。また廊下天井仕上げには貝殻粉が使われ、朝日の反射光に照らされるとキラキラとした空間になるそうです。

木舞壁から構造用合板に変えられた住居棟(木造)1階壁下地
床構面剛性を増すための合板と鋼製ブレース:住居棟2階 素心の間
我々が行う木造住宅の耐震補強方法とは、やはりひと味ちがうものです。文化的意匠を優先するうえで、純木造でなくなることは仕方なしというところでしょう。

旧アトリエ棟(木造)屋根 左中央部にはトップライト
旧アトリエ棟アトリエ内部からのトップライト
 旧アトリエ棟の屋根には、3度にわたる修理があったそうで、トントン葺きと言われる土居葺(板葺)に使用された竹釘の違いから判明したそうです。

既存ではアルミサッシの覆いがあった屋上庭(菜)園への外部階段:アトリエ棟
 RC外壁に塗られた黒色はコールタールです。経年劣化でつや消しの墨色になったのでしょうか。昔からこの不思議な黒は何を塗ったのか興味があり、ようやく謎が解けました。

レトロフィット」とは既存の劣化したところ直し、最新の技術を組み込みながら新品のように機能を向上させ復元することです。登録有形文化財に指定されている住宅建築のほとんどは、展示施設というかたちで使われています。実質的に住生活・執務環境の快適性を向上させる視点からの「レトロフィット」は、この朝倉彫塑館も含め少ないでしょう。
あくまでも、芸術家朝倉文夫さんが生きた当時の精神性や季節感、デザイン技術を残し、現在に体感できることが重要視された「レトロフィット」であるということです。
季節・時間の変化を楽しめる空間、往時の住環境における朝倉文夫さんの本質に触れられる来春が待ち遠しいかぎりです。

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